平成28年に実施された調査では糖尿病の人は約1,000万人、糖尿病予備軍と考えられる人(1,000万人)を合わせると2,000万人にものぼると言われています。しかしながら、糖尿病の人のうち実際に治療されている人は約半分程度の人にすぎません。もう半分の人は自分が糖尿病であることを知らない、あるいは知っているけれども治療を受けていないということになります。
このように未治療の人が多い理由の一つは、糖尿病が自覚症状の乏しい病気だからではないかと思われます。糖尿病の症状は「のどが渇く」「よく水やお茶を飲む」「尿が多い」「体重が減る」などと一般的には言われていますが、このような症状は相当に血糖値が高くならないと現れてきません。したがって、少しくらい血糖値が高くても症状はほとんどないため血液検査をしないと糖尿病であるとわかりませんし、検査をして「血糖値が高い」といわれても「何の症状もないのでたいしたことはない」と思ってしまう人が多いのではないかと考えられています。
しかしながら、症状が出現しない程度の高血糖であっても長期間持続すると眼や腎臓、神経に障害が生じてきますし、動脈硬化症が生じて血管が詰まりやすくなってきます。眼に生じる合併症に「糖尿病網膜症」があり、これにより失明してしまう人が年間3,500人以上あり、成人の失明の原因の多くは糖尿病によるものと考えられています。また、腎臓に生じる合併症を「糖尿病腎症」といいますが、腎臓の働きが悪くなって人工透析をしなければならなくなる人のうち、一番多いのが糖尿病によるものと言われています。脳や心臓の血管が詰まると脳梗塞や心筋梗塞が生じますが、糖尿病の人では糖尿病でない人の数倍多く発症すると言われています。このように「ほとんど症状がない」にもかかわらず、後に重大な結果を引き起こしてしまうところに糖尿病治療のむずかしさがあると思われます。