兵庫県立加古川医療センターでは、宗教上の理由による輸血拒否に対し、以下のように対応いたします。
絶対的無輸血 | 患者さんの意思を尊重し、たとえいかなる事態になっても輸血をしないという立場・考え方。 |
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相対的無輸血 | 患者さんの意思を尊重して可能な限り無輸血治療に努力するが、「輸血以外に救命手段がない」事態に至った時には輸血を行うという立場・考え方。 |
2012年9月19日
兵庫県立加古川医療センター院長
兵庫県立加古川医療センターでは、平成23年3月に策定した「臨床における倫理指針」の中で、宗教上の理由などで輸血療法を拒否する患者に対しては、輸血療法の必要性と副作用を十分に説明し理解を求め、その結果、輸血療法の同意が得られた場合は通常の診療を実施し、同意が得られない場合は、宗教的輸血拒否に関する合同委員会が定めた「宗教的輸血拒否に関するガイドライン」(いわゆる5学会合同ガイドライン)に沿って対処することとしてきた。5学会合同ガイドラインでは、18歳以上の成人で医療に関する判断能力があると判断された場合、医療者側が無輸血治療可能と判断し、かつ、免責証明書が提出された場合における絶対的無輸血治療を容認し、それが困難と判断された場合は、早期の転院を勧告するとされている。
しかしながら、実際の臨床現場-特に早急な対応が患者の予後に多大な影響を及ぼす救急医療の現場-では、輸血療法が救命のためには不可欠な場合が多く、また、早期の転院もきわめて困難な状況にある。このような場合、医療従事者としてどのように対処すべきか、現時点で明確な指針は確立されていない。
もとより、宗教上の理由などで輸血拒否を表明する患者に対して、輸血拒否を理由に診療拒否をすることは「医の倫理」にもとる行為として厳に慎まねばならず、また、患者の自己決定権行使の機会を奪い、これを阻害するようなこと(人格権の侵害に抵触)もあってはならない。すなわち、輸血拒否患者に対しても、輸血療法以外での最善の治療とともに輸血療法の代替療法に関する検討も行われるべきである。しかしながら、輸血療法が救命のために必要不可欠であると判断された場合に、輸血療法を行うことなしに患者を失うことは医療従事者として耐え難く、また、第三者からは医療従事者の果たすべき責務の放棄と捉えられかねない。そのような場合に、相対的無輸血治療の方針に基づいた輸血療法を行うことは、「医療従事者として当然果たすべき責務・使命」ともいえる。
兵庫県立加古川医療センターでは、これらの問題点を院内倫理委員会で検討しなおし、新たな「宗教的輸血拒否に関する診療指針」を策定したのでここに掲示する。
宗教的理由などによる輸血拒否に関する当医療センターの診療指針として「いかなる場合も相対的無輸血治療を行う」ことを基本方針とする。ここで言う「いかなる場合」とは、手術時の輸血療法のみならず、患者急変等不測の事態が生じて輸血以外に救命の手立てがない事態に陥った場合も含まれる。
さらに、本基本方針の概要を当医療センターホームページに掲載し、広く一般に周知することとする。
宗教的輸血拒否患者に関する診療指針(以下、本指針)における基本的考え方については、輸血療法実施までに許容される時間の多寡により、時間的余裕があるいわゆる平時と時間的余裕のない緊急時のふたつの状況に分けて考え方を整理する。
ここでの基本は、「十分な対話による意思決定」である。すなわち、患者やその家族・関係者と医療従事者が、相互の情報提供と対話の中で患者の医学的状況や社会的背景について理解し、両者間の信頼関係を構築しながら最善の治療方法を一緒に探り、輸血療法に対する意思決定を行うことが重要である。その中で、当医療センターの輸血に対する方針は、あくまでも相対的無輸血治療であることを十分に説明し、患者・家族等に納得して同意が得られるよう努める。その結果、相対的無輸血治療に同意が得られた場合は、相対的無輸血治療を行い、得られない場合はすみやかに他院への転院を勧告する。
ここでの基本は、「生命の尊重」である。手術時の予期せぬ大量出血のみならず、出血性ショックを呈する救急搬送患者や入院中に病状が急変し輸血療法を必須とする患者など、分秒を争う緊急時においては、救命を第一と考えた輸血治療を選択する。すなわち、相対的無輸血治療を患者や家族の意思に関わりなく行う。
宗教的輸血拒否を表明する患者の診療に就いた場合、担当医は所属診療科責任者(主任医長)に速やかに連絡するとともに、当該患者より免責証明書が提出され絶対的無輸血治療の申し出があっても、それには応じられない旨を伝える。また、免責証明書への署名を求められても、署名は行わない。
輸血療法に関する十分なインフォームド・コンセントにもかかわらず相対的無輸血治療の方針に同意が得られない場合は、速やかに転院を勧める。
相対的無輸血治療の同意が得られている場合でも、やむを得ず輸血療法を行う際は、所属診療科責任者を含む上級医複数名で輸血以外の治療法の模索と輸血治療の是非を決定する。さらに症例の詳細な経過を医療安全対策担当部長に報告する。
手術同意書、輸血同意書には、相対的無輸血治療の方針を明記し、院長はじめ副院長、診療部長、医療安全対策担当部長および担当医名を列記して本方針が病院としての方針であることを明確にする。このため、宗教的輸血拒否患者に対する手術同意書、輸血同意書は、通常用いている同意書とは異なる様式となる。それらは、必要時直ちに使用できるよう電子カルテ内に雛形を保存する。
出血性ショック状態で救急搬送された場合、入院中の病状急変により輸血治療が必須と判断され、かつ、時間的余裕がない場合には、相対的無輸血治療の方針のもと輸血治療を行う。すなわち、時間の許す限り患者及び家族に輸血の必要性を説明し同意を求めるが、患者本人および代諾者(家族)より相対的無輸血治療の同意が得られない場合には (手術同意書、輸血同意書に同意が得られない場合も含む)、生命の尊重を第一義に考え救命を優先した相対的無輸血治療を行う。その際、家族や教団関係者などより物理的抵抗があった場合は、適宜対応する。
患者本人および代諾者への輸血療法に関する説明と同意を得るにあたっては、担当医のみならず当該診療科の上級医など複数名の医師が同席して対応することを原則とする。
5学会合同ガイドラインには、「20歳以上の成人で、判断能力を欠く場合については、一般的な倫理的、医学的、法律的対応が確立していない現段階では法律や世論の動向を見据えて将来の課題とせざるを得ない」(以上原文)と記載されている。すなわち、18歳以上の成人で医療に関する判断能力がない場合においては、合同ガイドラインを遵守した診療指針をたてることは不可能である。よって、本指針では、18歳以上の成人で医療に関する判断能力がない場合には、以下に示す要領にそって対処する。
患者本人の明確な輸血拒否の意思が確認できない場合は、代諾者(家族)や教団関係者が絶対的無輸血治療を強硬に主張される状況であっても、相対的無輸血治療を行う。
本人が携行していた或いは代諾者より提出された本人自署の輸血拒否に関する免責証明書によって患者本人の明確な輸血拒否の意思が確認できる場合は、代諾者を対象として「具体的方策-1の1~4」を実施する。
出血性ショック状態で救急搬送された場合、入院中の病状急変により輸血治療が必須と判断され、かつ、時間的余裕がない場合には、相対的無輸血治療の方針のもと輸血治療を行う。この際、患者本人の明確な輸血拒否の意思の確認は必要としない。
患者ならびに親権者の両者が輸血拒否の意思表示をした場合は、具体的方策-1の手順を遵守する。
患者が相対的無輸血治療に同意した場合は、親権者の意思に関係なく相対的無輸血治療を行う。患者より輸血同意書を提出してもらう。
患者が同意せず、親権者が相対的無輸血治療に同意する場合は、親権者より輸血同意書を提出してもらい相対的無輸血治療を行う。
出血性ショック状態で救急搬送された場合、入院中の病状急変により輸血治療が必須と判断され、かつ、時間的余裕がない場合には、相対的無輸血治療の方針のもと輸血治療を行う。この際、患者本人の明確な輸血拒否の意思の確認は必要としない。
本指針においても、5学会合同ガイドラインを遵守することを基本とする。
親権者双方が輸血拒否の意思表示をした場合、具体的方策-1の手順に則り相対的無輸血治療の同意を得るよう努力する。同意を得られずとも、緊急時を含め最終的に輸血治療が必要となれば、相対的輸血治療を行う。その際、親権者等より物理的抵抗など治療行為が阻害される事態が生じた場合は、適宜対処する。
親権者の一方が相対的無輸血治療に同意し、他方が拒否する場合は、双方の同意を得るように努力するが、緊急を要する場合などには、輸血を希望する親権者の同意に基づいて相対的無輸血治療を行う。
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